この記事をまず次のように始めてもいいかもしれない。「ロシア人と飲むなら、決して‘Na zdorovie’ なんて言わないでほしい」と。そして、これがどれほど我々をうんざりさせているか、長々とぼやいてもいい。
しかし、感情は脇に置いて、仕事に取りかかろう。とにかく、乾杯で ‘Na zdorovie’ と言うのは間違いなのだ。ハリウッドとストリーミングサービスには、相変わらずこのステレオタイプが出てくるが。
アメリカに移住したばかりのポーランド人、1907年
Corbis/Getty Images一説によると、欧米の映画産業全体が(それがこの誤解の主な出所だ)、「ナ・ズドローヴィエ」が「乾杯!」のロシア版だと思い込んだ理由は、ポーランド移民だった。ちなみに、「ズドローヴィエ」は健康を意味し、「ナ」は前置詞。直訳すると「健康のために」となる。
ポーランド語には “Na zdrowie” というフレーズがあり、次の 2 つの状況で最も頻繁に使われる。つまり、乾杯のときと、誰かがくしゃみをしたときだ。どちらの場合も、健康を願うことを意味する。
おそらく、アメリカ人は、ポーランド移民の「波」が米国に流れ込んだ20世紀初めにこのフレーズを知ったのだろう。他ならぬポーランド人がしばしば招かれて、ロシアに関する映画に出演したり、そのコンサルタントになったりしたからだ。
こうして、ポーランド語の “Na zdrowie” がロシア語の架空の “Na zdorovie” に変容したのではあるまいか、というのだ。なかなか説得力がある説ではないか?
実際にそういうフレーズがロシア語に存在することもあり、これで混乱した可能性は確かにある。しかし、さらに他の説も見てみよう。
もう一つの説は、 “Na zdorovie” は、 “Vashe zdorovye” (あなたの健康のために)というフレーズが時とともに変化したというもの。ただ、 “Vashe zdorovye” はすでに廃れた古い語句だ。
この乾杯のルーツは、古代ロシアにまで遡る。かつて、公の健康を祝して乾杯する伝統があった。すべての客は、彼の健康のために杯を上げなければならなかった。
しかし、これは「ナ・ズドローヴィエ」と同じではない。それに、ロシア人の間で最も人気のある乾杯の言葉でないのも確かだ。
第一に、ロシア語の “На здоровье!” (Na zdorovie)は、「どういたしまして」の意味で使う。最もよく用いられるのは、昼食や夕食を褒められたときの返事としてだ。この文脈では、「どういたしまして」の意味で、主婦の丁寧な返事ということになる。
たとえば、客が「ありがとう、すばらしい夕食でしたよ!」というと、主婦がそれに答えて “На здоровье!”。
第二に、その料理が客の健康に良いように、という願いでもある。しかし、一つニュアンスがある。このフレーズは、友人など親しい人々にふさわしい。
カフェのウェイターがあなたの誉め言葉に “На здоровье!” と答えることはまずあるまい。そういう場合は、 “Не за что”(どういたしまして)、 “Спасибо” (ありがとう)、 “Пожалуйста”(どういたしまして)などの返答が返ってくることが多いだろう。
今や、読者の皆さんには、ロシアでは “Na zdorovie” が乾杯と無関係である理由がお分かりいただけたと思う。
いささか奇妙に思えるかもしれないが、ロシア語には “cheers” に相当するものがない。しかし、その代わりにどう言うべきかについて、いくつかのオプションをまとめた。
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