マグニトゴルスク製鉄所
=アレクサンドル・コンドラチューク/ロシア通信今年7月をメドにマグニトゴルスクに納入するのは、炉のフタとして使う、高さ7メートルほどの細長い資材だ。製鉄所では、1000度を超える高温で石炭を蒸し焼きにする工程があるが、炉のフタも高温にさらされるためやがて変形し、炉との間に隙間ができてしまう。炉内のガスがこの隙間から漏れ出て環境にも悪影響を与える。日本メーカーのフタは隙間ができにくい造りになっており、試験的に採用されることになった。藤田研二海外営業推進部長は「まずは数枚でのスタートですが、製鉄所の炉は、1基まるごととなればフタは60枚以上の納品になります」と、この先の大口受注に期待を寄せる。
ドーワテクノスは1940年代、鉄鋼などの重厚長大型産業が集まる八幡で創業した。主に製造業者に向けた生産設備・部品の供給、システムのコーディネートを手がけ、もっぱら日本国内で仕事をしてきた。同社がロシアと接点を持ったのは今から12年前のことである。
北九州市とロシアNIS貿易会が2005年秋、鉄鋼業のビジネス連携をテーマにチェリャビンスク州視察団を派遣。これに小野裕和社長が参加したのが始まりだった。この渡航で知り合ったチェリャビンスクの計測器メーカーが日本の技術に関心を持ち、幹部社員の訪日を含むさまざまなやりとりが発生。ドーワは2007年、日本製の計測関連機器をロシアメーカーのブランド名で納品するOEM供給を仲介することになった。まもなくほかのロシア案件も動き出した。現地の足場が必要になったドーワは2010年、チェリャビンスクに駐在員事務所を開いた。その後さらに案件が増えたため、2012年秋に事務所を「ドーワテクノス・ルス」として法人化した。現法は社長を含めて3人体制で、全員ロシア人だ。顧客への対応と、新規取引先の開拓が任務。商談先のロシア企業を北九州に視察に連れてくることもある。
ちなみに現法の心強い味方と言えるのが、チェリャビンスク州政府が所管する貿易振興機関、ワールドトレードセンター(WTC)だ。事務所を置くのはWTCのビル内で、社長以外の職員2人はセンターからの出向者で、法律や税務、財務処理などについての助言役を兼ねている。
むろん現法任せにしているわけではなく、日本からも営業担当者が年に数回渡航し、ロシア各地を回って見本市に出たり企業を訪ねたりする。実は冒頭の大手製鉄所との取引も、2014年夏にエカテリンブルク市での大型見本市「イノプロム」に参加したことがきっかけだった。この見本市で知り合った同市内の業者が製鉄所の取引先で、紹介を受けて売り込みに行ったところ契約につながった。
10年を振り返ればアクシデントもやはりあった。海外営業推進部のロシア担当者、久保田剛史課長によれば、最も大変だったのはロシア鉄道での輸送トラブルだという。ロシアの鉄鋼会社向けに分厚い鉄のロールを運んだところ、着いてみるとほとんどのロールが梱包を突き破っていた。貨車連結のときの衝撃が原因らしく、次の輸送では厳重に振動対策を施したが、今度は別角度からの衝撃が加わったようで、やはり同じ結果だったそうだ。
昨今のロシアでは西側との関係悪化を機に国内生産が盛んになり、製造業を支援するドーワのビジネスにも追い風が吹いているようにも見える。だが話はそう単純ではないという。ルーブル相場は回復傾向にあるとはいえ、急落前の水準にはまだ遠く、輸入品には依然として割高感がつきまとう。その上、消費財だけでなくメーカーの生産設備や部品までも国内で調達しようとする傾向が強くなり、むしろ逆風というのがドーワ社内の見方だ。
藤田部長は「こんなときこそ、日本の設備や技術がロシア企業にどう役に立つのかを説明する力、提案する力が重要になってきます。5月にはロシア法人に新たに日本人社員を送り込み、営業態勢を強化する計画です。広いロシアに眠っているたくさんのビジネスを掘り起こして、大きく展開していきたい」と語る。ものづくりで日露をつなぐ挑戦が今後も続く。
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