「毎年、12月31日に僕らはサウナに行くんだ」。こんなセリフから、ロシアを代表するお正月映画は始まる。1975年の製作で、監督はエリダール・リャザーノフ。もちろん、誰もが正月前にサウナに行くわけではないし、ましてや、モスクワ市民がサンクト・ペテルブルグにある同じ名前の住所の家に迷い込むわけでもない。そんなことをするのは、この映画の主人公だけだ。
とはいえ作中に描かれるお祝いの雰囲気は、たくさんの客人、時には奇妙な方向に逸れるトーク、歌、オリビエ・サラダに魚の煮凝り料理に至るまで、描写は忠実だ。もちろん、新年を前に奇跡の到来と真実の愛を信じる心も見逃せないが、これはロシアに限った話ではないだろう。2022年、アメリカで「運命の皮肉」のリメイク映画「About Fate」(エマ・ロバーツとトーマス・マン主演)が公開されたのは、その証と言えそうだ。
古き良き時代を懐かしむのはあらゆる人々に共通だが、ロシア人の場合は特にその傾向は強いようだ。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 よりも遥か以前に、作中でソ連のドジな科学者がタイムマシンを完成させ、16世紀へ時空の扉を開く。そして結果的に、ロシア皇帝イワン雷帝と隣人(アパート管理人)が入れ替わってしまう(偶然ながら、2人ともイワン・ワシリエヴィチという名だった)。
作中の雷帝は、教科書のイメージほどに残忍ではない。むしろ時間が経つにつれて、ソ連文明の恩恵を心地良く思うようになる。一方アパート管理人の方は皇帝の役目を気に入ったようだが、正体は早々に露見してしまう。結局、時空と慣習を越えた冒険は波乱に満ちているものの、やはり慣れ親しんだ時代の方が良いものということだろう。
こちらも、人物の入れ替わりネタを扱ったソ連の大ヒットコメディだが、テーマは司法である。地味な幼稚園の園長先生・トロシュキンは、あろうことか、危険なギャング、通称「助教授」に瓜二つだった。 「助教授」は脱獄し、アレキサンダー大王の黄金の兜を持って逃走中だった。ギャング団のメンバーは逮捕されたが、「助教授」の捜索のためには、警察は欺瞞作戦に訴えざるを得ない。トロシュキンの了解を得た上で、彼を投獄するのだ。
こうして、控えめな園長先生は凶悪犯の逮捕劇に重大ながら実におかしな役割を演じることになる。なお、この冒険活劇を鑑賞するにあたっては、野菜のラディッシュがロシアでは悪人のシンボルでもあることに留意しておきたい。
「セックス・アンド・ザ・シティ」よりもはるかに昔、ウラジーミル・メニショフ監督は大都会で仕事をする女性の孤独を主題にした映画を手掛けた。「モスクワは涙を信じない」は何世代ものロシア女性たちに愛され、オスカーも受賞している。この映画は、お互い親しい3人の女性たちの、20年にわたる人生模様を描き出している。
成功を夢見て地方から首都・モスクワにやってきた彼女たちは、愛と家族とキャリアに恵まれることを信じて疑わなかった。だが、人生はままならない。それでも、彼女たちはそれぞれの道を見つけていく。ロシア女性は、何があっても諦めない、不屈の存在だからだ。
「国民的」コメディといえば、これだろう。ロシアの飲み物について、外国人が最も好むクリシェ…そう、ウオッカにまつわる描写が際立っている映画だ。森林保護隊の見張り所に、ロシアの伝統や慣習を研究しているフィンランド人がやってくる。そこでは将軍、漁師、その他のロシア人たちが、まさにその伝統と慣習を体現している。「健康のために!」という乾杯の音頭に始まり、ロシアの気質と生活にまつわる荒っぽい小話が次から次へと出てくる。とにかく、プロが演じる一連の離れ業は、決してマネしないでいただきたい。
アレクセイ・バラバーノフ監督による、現代ロシアを代表する2部作映画。セルゲイ・ボドロフJr演じる主人公ダニーラ・バグロフは、ロシアのロビン・フッドとでも言うべきキャラクターだ。彼は、「力は真実に宿る」と信じている。そして2部作にわたって、懸命にその理念を証明しようとする。
第1作ではチェチェン戦争従軍によるPTSDの克服を目指し、第2部では唐突にアメリカに渡り、そこで新たなリアルを受け入れようとする。ダニーラ・ボグロフはロシアで「新たな時代の英雄」となり、いまだ、その後継となるようなキャラクターは出現していない。
「ロシアン・ブラザー」はYouTubeからロシア語でご覧になれる>>
ピョートル・ブスロフ監督作品。この映画は、1990年代という時代に対するロシア人の感情に、ある種の完結を見せた作品だ。1990年代は、最もアンビバレントな時代だったのだ。
映画のタイトルは、黒いBMWの愛称であるBimeer、ロシア風に呼ぶなら、「ブーマー」にちなむ。まさにこの黒いBMWに乗って、4人組のカリスマギャングは逃走劇を演じる。バックにかかるのは、ちょうど当時名声を獲得しつつあったセルゲイ・シュヌーロフの曲だ。シンプルな和音は、あまりに多くを体験してきたロシアの人々を端的に表現している。
ロシア人はもちろん、口をそろえて「レフ・トルストイが好き」と言うだろうが、実際に「戦争と平和」全4編を読破できた人は少ないはずだ。しかし、セルゲイ・ボンダルチュク監督の映画化作品を見た人は多いだろう。
同作は1966年に国内で大ヒットしたのみならず、オスカーも受賞した。およそ楽しい作品とは言い難いが、しかしロシアの歴史と運命、上流階級から一般民衆の気質に至るまで、その考察に膨大な材料を与えてくれる作品である。そしてその考察は、現代に至るまでアクチュアルなのだ。
こちらもまた映画ファン向け、それも歴史だけでなくSFにも関心が高い人向けの大作だ。原作は、SF界の開拓者ストルガツキー兄弟の「路傍のピクニック」。これをモチーフに、巨匠アンドレイ・タルコフスキーが監督した。
タルコフスキー作品の中でも最も有名かつ、最も怖ろしい一作だろう。哲学的な抽象やキリスト教的引喩に隠れて、作中ではソ連の歴史の最も残酷な断片が表現されているからだ。一方、印象深いビジュアルと、モノクロからカラーへの効果的な映像の切り替わりが功を奏し、「ストーカー」は広く一般的に最も理解しやすいタルコフスキー作品ともなっている。
なぜ、ロシア人は宇宙を目指さずにはいられないのか。そんなテーマを題材にした新作である。「スペースウォーカー」は冷戦の真っただ中、人類初の宇宙遊泳を成功させたアレクセイ・レオーノフの物語だ。最も、政治的な要素は大して重要ではない。中核となるのは真の友情、そして必ず叶うであろう、子供の夢の物語である。
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