刊行:2012年10月 中沢敦夫・宮崎衣澄 著
東洋書店
ロシアに行って聖像画(イコン)に気づかずに帰る人はいないだろう。
壮麗な祭壇を埋め尽くすイコン、その教会の入り口でお土産か文具のように売られている小さなイコン、村の家の神棚に並ぶ黒ずんだイコン。車の運転席でも時に小さな聖母子像が揺れている。そんなイコンの「生活用具」としての側面が描き出されている。
本書は美術でも歴史でも神学でもない。「人々はイコンをどう利用してきたのか」という視点からのイコン分析はこれまでにはなかったものだ。人々は、自分の守護聖人のイコンに一生を見守られ、聖母子像のもたらす奇跡を信じ、聖ニコラに豊作を、ひげの聖人に歯痛治癒を祈願した。ロシア社会で分かちがたく結びついていた信仰と生活の形がここに現れてくる。